今回は貿易取引する際に必要な貿易条件について説明をしていきたいと思います。
目次
インコタームズとは?貿易取引でのルールを解説
インコタームズ(International Commercial Termsの略)とはフランスに本社を置く国際商業会議所(ICC)が貿易取引における費用負担・範囲等の取引条件を定めた国際規則となります。
インコタームズは世界共通で使われている貿易条件で全てアルファベット3文字で表記されます(例えば CIF, DAP等)。
貿易取引では商品自体の代金に加えて、運送料・保険料・通関費用・関税等、取引にかかわる様々な費用が発生するほか、輸送時にも多くのリスクが伴います為、そのため貿易取引では、その商品を輸送する際のリスクや費用、誰がどの範囲まで負担するをインコタームズで明記決定していきます。
一般的に売主(輸出者)は商品代金とインコタームズをセットで販売し、買主(輸入者)はセットで確認をしていきます。
2020インコタームズについて改定された点を解説
2020年に改訂されたインコタームズでは、貿易取引の明確化と利便性の向上を目的に、「すべての輸送手段に適した規則」と「船舶輸送にのみ適した規則」の2つの大きなグループに分類されています。
合計で11の貿易条件が定められており、それぞれの条件によって、売主(輸出者)と買主(輸入者)の費用負担とリスク負担の範囲が異なります。
すべての輸送手段に適した規則」
条件(略語) | 正式名称 | 日本語訳 |
EXW | Ex Works | 工場渡し |
FCA | Free Carrier | 運送人渡し |
CPT | Carriage Paid To | 輸送費込 |
CIP | Carriage And Insurance Paid To | 輸送費保険料込 |
DAP | Delivered At Place | 仕向地持込渡し |
DPU | Delivered at Place Unloaded | 荷卸込持込渡し |
DDP | Delivered Duty Paid | 関税込持込渡し |
「船舶輸送にのみ適した規則」
条件(略語) | 正式名称 | 日本語訳 |
FAS | Free Alongside Ship | 船側渡し |
FOB | Free On Board | 本船渡し |
CFR | Cost and Freight | 運賃込 |
CIF | Cost, Insurance and Freight | 運賃保険料込 |
インコタームズ全11条件における売主・買主の負担範囲
インコタームズは、条件によって売主(輸出者)または買主(輸入者)にとっての「危険負担の範囲」と「費用負担の範囲」が異なります
EXW条件
EXW(Ex Works)は、売主(輸出者)の工場や倉庫で商品を引き渡し、それ以降の輸送に関するリスクや費用をすべて買主(輸入者)が負担するという条件です。
買主が行うこと:
- 工場や倉庫からの輸送手段の手配(トラックなど)
- 輸出通関手続き
- 輸送に関するすべての費用とリスク負担
EXWは買主の負担が最も大きい条件で、輸出地での輸送や通関の費用もすべて買主が負担することになります。
FCA・CPT・CIP条件
FCA(運送人渡)/Free Carrier
- 売主が輸出地の倉庫や指定場所で商品を引き渡し、それ以降の危険負担は買主へ移る。
- 倉庫までの輸送費用は売主負担、それ以降の輸送は買主負担。
CPT(輸送費込)/Carriage Paid To
- 売主が輸出地の運送人に引き渡した時点で危険負担が買主へ移るが、輸送費用は売主が負担。
- 輸出通関手続きも売主が行う。
ただしCPTの場合、引き渡し義務が完了した後、指定仕向地までの輸送費用は売主が負担します。また、輸出通関手続きも売主が手配して行います。
CIP(輸送費保険料込)/Carriage and Insurance Paid To
- CPTと同様だが、輸送費用だけでなく、保険料も売主が負担。
- より手厚い輸送保証を求める場合に使用される。
CPTやCIPは、コンテナ船や航空輸送でよく使われる条件です。
DAP・DPU・DDP条件
DAP(仕向地持込渡し)/Delivery at Place
- 輸入国の指定仕向地で、荷降ろし時に危険負担が買主へ移る。
- 荷降ろし費用以降は買主負担。
尚、DAPの場合、輸入通関手続き、関税・消費税の支払いは、買主が手配して行います。
DPU(仕向地荷下渡)/Delivered at Place Unloaded
- 輸入国の指定仕向地で、荷降ろし後に危険負担が買主へ移る。
- 荷降ろしまでの費用・リスクは売主負担(DAPより売主の負担が大きい)。
DPUの場合も同様、輸入通関手続き、関税・消費税の支払いは、買主が手配して行います。インコタームズの中で唯一荷卸しまで含まれている条件になります。
DDP(関税込持込渡)/Delivery Duty Paid
- 輸入通関後、買主へ危険負担・費用負担が移転。
- 関税・輸送費用・通関手続きも売主が負担するため、最も売主の負担が大きい条件。
- 主にギフトや商品サンプル、不良品の代替品を送る際に使用。
FAS・FOB・CFR・CIF条件
FAS(船側渡し)/Free Alongside Ship
- 指定船積港で本船の船側に商品を置いた時点で、売主の引き渡し義務が完了
- その時点から一切の危険負担・費用負担が買主に移転する。なお、輸出通関手続きは、売主側で行われます。
FOB(本船渡し)/Free On Board
指定船積港で本船の船上に商品を置いた時点で、売主の引き渡し義務が完了。
その時点から一切の危険負担・費用負担が買主に移転するという条件。なお、FOBも輸出通関手続きは、売主側で行われます。
FOBは代表的な貿易条件で、輸出入を行う上で皆様が最も馴染みある貿易条件となります。
CFR(運賃込)/Cost and Freight
- CFRは、売主からの商品の引き渡し場所、危険負担の範囲はFOBと同じですが、指定仕向港までの商品の運送費用は売主が負担するという条件です。
なお、貿易実務では「C&F」と表現されることが多いですが、正式名称は「CFR」となります為、契約書などを交わす際には「CFR」と表記する方が良いでしょう。
CIF(運賃保険料込)/Cost, Insurance and Freight
- CIFは、売主からの引き渡し場所、危険負担の範囲はFOB・CFRと同じですが、指定仕向港までの商品の運送費用と保険料を売主が負担するという条件です。
上記の通りインコタームズは全てアルファベット3文字が表記されますが、貿易条件は「売主(輸出者)側から見た危険負担・費用負担の範囲」を意味していることが多いので、少し深く考えてみますと、11条件の内容を覚えやすくなりますよ。その例をいくつかご紹介します。
EXW = Ex Works (指定引渡地)
「売主の工場(Works)から外へ出た後のリスク・費用は、売主は負担しない」
FCA = Free Carrier (指定引渡地)
「売主が運送人(Carrier)に商品を引き渡すまでの費用は負担するが、引き渡してからは無料(Free)になる」
CIF = Cost, Insurance and Freight (指定仕向港)
「売主が指定仕向港までの保険料(Insurance)と運賃(Freight)を負担する」
インコタームズ2020と2010の相違点を解説
2010年に発行されたインコタームズと、2020年1月1日に発効されたインコタームズの違いについて解説します。
2020年版では、現代の貿易環境に適応するための修正が加えられました。主な変更点として、以下の2つが挙げられます。
- DAT(Delivery at Terminal)の削除とDPU(Delivered at Place Unloaded)の新設
- CIP(Carriage and Insurance Paid To)の保険要件の変更
DATからDPUへの変更
インコタームズ2010に存在したDAT(ターミナル持込渡し)が削除され、新たにDPU(荷卸込持込渡し)が新設されました。
基本的な仕組みは同じですが、適用範囲が広がった点が大きな違いです。
項目 | DAT(2010) | DPU(2020) |
引き渡し場所 | ターミナル(港湾倉庫・CY等)に限定 | 仕向地全般(ターミナル以外でも可) |
荷卸しの負担 | 売主 | 売主 |
危険負担の移転タイミング | 荷卸し完了時点 | 荷卸し完了時点 |
但し、DATでは、荷降ろしされる場所が「ターミナル」に限定されていたのに対して、DPUではターミナルに限定されないより柔軟な取引が可能になりました。
CIP(輸送費・保険料込み)の保険要件の変更
2020年版では、CIP条件における保険カバー範囲が拡大されました。CIPを利用する際、売主はより広範な保険を手配する義務を負うようになったため、契約時に保険内容の確認が重要になります。
項目 | CIP(2010) | CIP(2020) |
保険の適用範囲 | ICC(C)条件 | ICC(A)条件(より広範なカバー) |
売主の義務 | 最低限の補償 | より手厚い保険補償が必要 |
まとめ
ここまで簡潔に説明をしてきましたが、商社、貿易関連企業、運送業者で働いる場合でも全て11種類のインコタームズを把握する必要はないとは思いますが、ただ輸出入を行う上で貿易条件は売主・買主にとって非常に大事な事となりますので、費用負担、危険負担の範囲はしっかりと把握した上で業務を行うと良いでしょう。
最後に上記貿易条件以外にも、Liner In – Liner Out, Free In – Free Outなど非常に馴染みのない貿易条件もございますが、こちらは主にRo/Ro船、在来船のプラントなどの重量物を取り扱う際の使われる貿易条件等となります、また機会が有ればその際に細かく説明したいと思います。
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