海運業界にも、持続可能な社会の実現への貢献が求められており、いかに地球環境に優しい海上輸送を実現させるかが重要なテーマとなっています。
特に、排出ガスによる環境への負荷を低減するため、低硫黄燃料を使用する船舶が注目されています。
この背景には、国際海事機関(IMO)が2020年に導入したSOx規制があり、これに対応するために新たな追加費用としてLSSサーチャージが導入されました。
LSSサーチャージ は、海運ビジネスと環境への配慮のバランスを取るために導入された料金だと言えるでしょう。
この記事では、LSSサーチャージについての解説、航行する海域と港ごとでの硫黄酸化物濃度規制値の違い、サーチャージ とサーチャージ の種類について詳しく解説をしていきます。
LSSサーチャージとは?
LSSサーチャージ とは、船舶に低硫黄(Low Sulfer)燃料を使用することによって発生する割増料金のことです。
船舶に使用される燃料には、SOx(硫黄酸化物)が含まれています。
SOxは下記の問題を引き起こすため、2020年1月にIMO(国際海事機関)によって規制されることになりました。
- 海洋汚染
- PM2.5による大気汚染(船舶の排ガス中のPM2.5はSOxから生成されるため)
- 生態系破壊
- 酸性雨の発生による環境汚染
- 健康被害(気管支炎やぜん息などの呼吸疾患)
IMOによるSOx規制に対応するために、船会社は下記の対応のいずれかを行う必要があります。
- 低硫黄燃料に切り替える
- 排気ガスからSOx(硫黄酸化物)を洗浄する装置(スクラバー)を船舶に搭載させる
- LNG(液化天然ガス)燃料船に切り替える
低硫黄燃料は、従来使用されていたC重油に比べて30〜50%ほど割高になっているため、サーチャージが発生するのです。
低硫黄燃料とは?
低硫黄燃料の硫黄酸化物濃度は0.5%で、従来の燃料の3.5%に比べて低くなっています。
燃料を低硫黄化するためには、重油を脱硫、または精製しなければならないため、コストが上がるのです。
しかし、SOx規制への違反は、拘留、過怠金、最悪の場合は入港禁止措置の対象になるため、遵守しなければいけません。
LSSサーチャージ は船会社によって金額が異なり、ONE Bunker Surcharge(OBS)や、IMO Sox Compliance Charge(ISOCC)と呼ばれることもあります。
船が航行する海域によって硫黄濃度の制限値が変わる
船が航行する海域や、停泊する港によって、硫黄濃度の制限値は変わります。
主な海域と港の硫黄濃度制限値をまとめました。
海域、港 | 硫黄濃度の制限値 |
ヨーロッパの北海 バルト海 米国・カナダ沿岸海域の200海里内 米国カリブ海海域 |
0.1%以下 |
EU港湾 | 0.1%以下 |
中国 DECAs | 0.5%以下 |
中国 Inland River Control Area | 0.1%以下 |
中国 Hainan Water Area | 0.1%以下 |
香港水域 | 0.5%以下 |
台湾 (基隆港、臺中港、高雄港、花蓮港、臺北港、蘇澳港、安平港、麥寮港) |
0.5%以下 |
韓国 (釜山港、仁川港、麗水(ヨス)港・光陽港、蔚山港および平澤(ピョンテク)・唐津 (タンジン)港など国内5大港湾周辺) |
0.1%以下 |
出典:日本海事協会
規制対象になる海域のことを、ECA(Emission Control Are)と呼んでいます。
また、仮にスクラバーを搭載している船舶であっても、スクラバーからの排水が禁止されている水域や港もあります。
サーチャージが発生する理由、種類と特徴の解説
コンテナ船の海上運賃は、基本運賃とサーチャージ (割増料金)で構成されています。
船会社は、燃料の価格、通貨為替レートの変動など、船会社の企業努力だけでは防げないコストをサーチャージとして顧客に請求しているのです。
代表的なサーチャージ について解説します。
- 燃料費調整係数(BAF/Bunker Adjustment Factor)
燃料の価格変動に対して、コンテナ単位、またはトン単位で発生するサーチャージ です。本船の航路によって、BAF以外の名称で呼ばれることもあります。
BAF以外の名称の例:
- BS (Bunker Surcharge)
- EBS (Emergency Bunker Surcharge)
- EFAF(Emergency Fuel Adjustment Factor)
- FAF (Fuel Adjustment Factor)
- 通貨変動調整係数(CAF/Currency Adjustment Factor)
CAFとは、通貨為替レートの変動による為替差損益の調整を目的にしたサーチャージです。基本運賃に対するパーセンテージで価格が決められることが一般的です。
基本運賃はドル建てになっていることが多いため、円高の時はサーチャージが高くなり、円安の時は安くなります。
一方で、日本円での決済を行う東南アジア航路では、CAFではなく、YAS(Yen Appreciation Surcharge)というサーチャージが発生します。YASとは円高に対する調整費用のことです。
また、下記のような場合にもサーチャージ が発生する場合があります。
- 海上輸送のピークシーズン (PSS/Peak Season Surcharge)
- 港の混雑によって本船入港が遅れる場合 (PCS/Port Congestion Surcharge)
- 本船が危険海域を避けて航行する場合 (ERS/Emergency Risk Surcharge)
上記の費用の明細は、アライバルノーティスに記載されています。それぞれのサーチャージの内容を理解した上で請求内容をチェックすることが大切です。
為替市場や、原油価格の最新状況を把握して、可能な限りサーチャージを抑えられるタイミングでの海上輸送を手配するとよいでしょう。
まとめ
海上輸送のコストが上がることは好ましいことではありませんが、環境保護に取り組まなければ、地球はいずれ人が住める場所ではなくなってしまいます。
持続可能な社会の実現を目的として、どのような規制が今後導入されるかを注視しつつ、いかにビジネスへの影響を抑え、 商機につなげていくかは今後も重要なテーマになるでしょう。
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