AEO制度は、円滑で安心安全な国際物流を目指して設定された官民パートナーシップです。日本国内だけでなく世界で導入されているAEO制度は、国際物流を学ぶ上では欠かせません。AEO制度に焦点を当てて、概要やメリットを詳しく解説します。
目次
AEO制度とは
AEO制度とは、貨物のセキュリティ基準とコンプライアンス体制が適切に整備されている事業者に、税関手続きの簡素化や緩和などのメリットを提供する制度です。AEO制度のメリットを受けるためには、事業者は税関からの承認を受ける必要があります。AEOは、Authorized Economic Operatorの略です。
AEO制度の概要
AEO制度の導入の目的は主に2つあります。
・税関手続きの効率化
・国際物流におけるセキュリティ確保
2001年に発生した、米国での同時多発テロを機に、安心安全かつスムーズな国際貿易が求められるようになりました。AEO制度は日本に2006年に導入され、世界では90以上の国と地域で使われています。
AEO制度のメリット
AEO制度を導入することで事業者は、税関手続きの簡素化・迅速化といったメリットが受けられます。
輸出入通関の手続きがスムーズになることで、先周りした輸出入手続きが可能となり、事業者の時間短縮やコスト削減が可能になっています。
AEO事業者の種類
2006年の導入時には、AEO事業者の種類はAEO輸出者のみでしたが、現在は6種類の事業者が対象となっています。
AEO輸出者(特定輸出者制度)
輸出者がAEO事業者に認定されると、輸出する貨物を保税地域に運送することなく、輸出申告の許可を得ることができます。
一般事業者の場合はCY(コンテナヤード)に貨物が運ばれる前に、輸出許可や審査・検査を受けるために保税地域を経由します。しかしAEO輸出者になると、保税地域を経由することなく、出発地である輸出者の倉庫などで輸出承認を受けることが可能です。審査・検査率の軽減により、物流スケジュールが立てやすくなり時間短縮・余剰在庫の削減できるメリットがあります。
そのほか、輸出許可を受けた後に手続き内容の訂正を必要とする場合、申請内容の変更手続きも一般事業者と比べ簡単です。
現在日本では、231の事業者が認定されています。
AEO輸入者(特定輸入者制度)
輸入者がAEO事業者に認定されると、輸入する貨物を保税地域に運送することなく、輸入申告の許可を得ることができます。
一般事業者の場合、日本に到着した貨物は、輸入許可や審査・検査、納税、貨物引き取りなどのために保税地域に運ばれます。一方、AEO輸入者になると、日本に貨物が到着する前に輸入許可を受けることができるため、保税地域を経由することなく貨物が日本に流通します。関税を納めるのも後日一括して手続きを行えるため、貨物を一時保管する必要がありません。
現在日本では、99の事業者が認定されています。
AEO倉庫業者(特定保税承認者制度)
特定保税承認者となった倉庫業者は、一般倉庫業者に比べてあらゆるメリットを受けられます。以下にメリットをご紹介します。
・税関長へ届け出ることで、倉庫の設置が可能
・個々の届け出の更新は不要
・許可手数料なし
・税関検査の軽減
一般事業者であれば、保税蔵置場(倉庫や工場)の設置には税関の許可が必要です。AEO倉庫業者であれば、税関長への届け出のみで設置ができます。また設置期間は、一般事業者が6年を超えないという制約があるのに対し、8年の許可期間が与えられています。
現在日本では、142の事業者が認定されています。
AEO運送者
AEO運送者になると、保税運送ごとの承認が不要になります。一般的事業者であれば、税関に対象となる貨物ごとにそれぞれ保税運送の申告・承認が必要です。一方、AEO運送者であれば貨物別の申告・承認が不要になります。
また特定委託輸出貨物における申告は、AEO輸出者からの委託を受けたものに限り、保税地域以外の場所から直接CY(コンテナヤード)へ運ぶことも可能です。
現在日本では、9つの事業者が認定されています。
AEO製造者
AEO製造者になると、保税地域を経由することなく輸出許可を受けることが可能です。そのため、貨物が船に積まれるまでの運送過程を大きく短縮できるメリットがあります。
またこの輸出許可を受けるためにする輸出申告は、貨物の蔵置場所関係なくどの税関長に申告しても問題ありません。
AEO通関業者
AEO通関業者になると、特定委託輸出申告と特定委託輸入申告が可能になります。AEO通関業者になるメリットは、特定委託輸出申告の場合は保税地域に入ることなく輸出許可を受けることができ、定委託輸入申告は貨物が日本に到着する前に輸入許可が受けられる点です。先読みしやすい物流動線になるため、事業者の負担が減ります。
そのほか、貨物の蔵置場所に関係なくどの税関長に輸出入申告しても問題ありません。
現在日本では、226の事業者が認定されています。
AEO承認を受ける方法
AEO事業者になることで受けられるメリットが大きい分、承認を受けるための要件は細かく定められています。承認を受けるための審査ポイントと、利用するまでの申請手順をご紹介します。
AEO承認の審査ポイント
AEO承認を受けるためには、
・貨物のセキュリティ確保
・法令遵守の体制整備
の2つのポイントを基準に審査を受けます。
貨物のセキュリティ確保とは、貨物輸送過程での貨物の盗難、すり替え、差し込みがされない体制が整っている事業者かを判断します。
これらのセキュリティ確保のために、
①貨物が運ばれている動線の管理体制やコンテナ管理
②不正侵入者の発見がしやすい環境整備
③ネットワークシステムへの不正アクセスのリスク低減
といった要件がそろっているかが承認項目です。
法令遵守の体制整備とは、税関手続きなどの法令違反の未然防止に必要な手順書の策定や研修・教育の設定などの体制がとられているか、また違反が発生した場合の適正な報告・連絡、再発防止策が練られているかなどです。
AEO承認を受ける手順
AEO承認を受ける場合は、「特定輸入者等承認・認定申請書(C-9000)」に必要事項を記入の上、関係書類を税関に提出します。必要書類は事業者別に異なるため、詳細は税関HPを確認してみてください。
参考:https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/aeo/index.htm#no-01
AEO事業者に向けて社内で検討を始めてから、実際に税関から承認が降りるまでは、約1〜2年かかります。必要書類を提出してから審査結果までは2か月程度ですが、税関へ提出するための書類作成や手順書の整備に多くの時間が必要です。
国際物流におけるAEOの相互承認
国際的に導入されているAEO制度は、それぞれの二国家間でAEO事業者を相互承認することで、安全安心かつ円滑な国際貿易が成り立っています。
世界でのAEO相互承認は100組を超えており、日本は13か国の国・地域と関係を結んでいます。
AEO相互承認のメリットは2つです。
・日本の税関だけでなく、貿易相手国の税関手続きでもリスクに応じて審査・検査の負担軽減
・AEO事業者であることがステータスとなり、国際的に信頼される
※日本がAEO相互承認を結んでいる国と地域:アメリカ、EU、ニュージーランド、カナダ、韓国、シンガポール、マレーシア、香港、中国、台湾、オーストラリア、イギリス、タイ
まとめ/安心で迅速な貿易に貢献するAEO制度
AEO制度は、テロの発生をきっかけに、物流のセキュリティ確保とスピーディーな国際物流を目的に始まったことをご紹介しました。国際物流において日本の国際競争力強化のためにも、AEO制度の注目度は年々大きくなっています。AEO制度を正しく理解しメリットを把握することで、国際物流活性化に貢献していきましょう。