特恵関税とは、特定の国や地域からの輸入品に対して、通常よりも低い関税を適用する制度のことです。
特恵関税制度には一般特恵関税制度と特別特恵関税制度などがあり、制度により適用品目、適用税率が異なります。
特恵関税制度を知っておくことは貿易取引におけるコストメリットや経済発展支援の貢献に繋がります。
この記事では、特恵関税制度の対象品目や適用税率、メリットや活用法などを詳細にまとめています。
この記事を最後までお読みいただくことで、特恵関税における知見を増やすことができるでしょう。
目次
特恵関税とは
特恵関税とは、特定の国や地域からの輸入品に対して、通常よりも低い関税を適用する制度のことです。
特恵関税は、開発途上国の経済発展を助けることを目的としています。
特恵関税措置にはいくつかの種類があり、主に以下の2つが代表的です。
- 一般特恵関税制度(GSP:Generalized System of Preferences)
- 特別特恵関税制度(LDC:Least Developed Countries)
■一般特恵関税制度(GSP:Generalized System of Preferences)
対象:開発途上国全般
目的:開発途上国の輸出を促進して、経済発展を支援すること
品目・関税率:農水産品と鉄工業品に分けて定められている
農水産品は一部の品目が対象で、品目ごとに関税率が異なります。
また、鉄工業品は一部の例外を除く全ての品目が対象で、原則関税率は無税で一部有税です。
■特別特恵関税制度(LDC:Least Developed Countries)
対象:後発開発途上国(LDC)
目的:特に経済的に困難な状況にある国を支援すること
品目・関税率:後発開発途上国(LDC)からの輸入に関しては、ほぼ全ての品目に対して無税が適用
※後発開発途上国とは、開発途上国の中でも特に経済や社会発展が遅れている国々のこと
※後発開発途上国は国連が定めた基準に基づいて設定されます
特別特恵関税制度では一般特恵関税制度よりさらに低い関税率、または無税の関税率が適用されます。
このような特恵関税、特別特恵関税の適用を受けるためには、原則として原産地証明書が必要になりますので合わせて覚えておきましょう。
特恵関税の適用条件
特恵関税が適用されるにはそれぞれ条件があります。
以下でそれぞれ解説します。
一般特恵関税制度
一般特恵関税制度の適用条件は以下の通りです。
- 対象国:開発途上国全般
- 対象品目:特定の農産品や鉄工業品
- 原産地証明書:輸出国の商工会議所などから発行される「FORM A」が必要
- 原産地基準:完全生産品基準または実質的加工基準(関税番号4桁変更基準)
- 直送要件:受益国から日本へ直接輸送されること
特別特恵関税制度
特別特恵関税制度の適用条件は以下の通りです。
- 対象国:後発開発途上国
- 対象品目:一般特恵関税制度よりも広範囲な品目
- 原産地証明書:輸出国の商工会議所などから発行される「FORM A」が必要
- 原産地基準:完全生産品基準または実質的加工基準(関税番号4桁変更基準)
- 直送要件:受益国から日本へ直接輸送されること
特恵関税対象品目
ここでは、一般特恵関税制度と特別特恵関税制度の対象品目について解説します。
一般特恵関税制度の対象品目は主に農水産品と鉄工業品がそれに当たります。
農水産品(HS第1類~24類)には約1900の有税品目があり、一般特恵関税では約400品目が対象です。
例えば、食用の野菜、コーヒー豆、魚介類などです。
鉄工業品(HS第25類~第76類、第78類〜第97類)は有税約4300品目の内約3300品目が一般特恵関税の対象品となります。
鉄鋼製品や繊維製品などがそれに当たります。
次に、特別特恵関税制度(LDC)の対象品目ですが、後発開発途上国(LDC)からのほぼ全ての品目が対象です。
例えば、農産品、鉄工業品、繊維製品などその種類は多岐にわたります。
特恵関税制度の対象品目は以下のページで詳しく確認することができます。
出典:税関ホームページ ippan.pdf (customs.go.jp
出典:財務省ウェブサイト 856_01_023-027.pdf (mof.go.jp)
特恵関税制度の適用税率
特恵関税制度の適用税率は、特恵関税制度は開発途上国の経済発展支援を目的のため、
通常の関税率よりも低く設定されており特定の品目に対して適用されます。
例えば、特恵関税制度では以下の様な税率が適用されます。
■トマトの輸入
- 通常の関税率:5.0%
- WTO協定関税率:3.0%
- 特別特恵関税率:無税
■練炭の輸入
- 通常の関税率:4.6%
- 特恵関税率:無税
■マンゴーの輸入
- 通常の関税率:9%
- 特恵関税率:3%
- 特別特恵関税率:無税
出典:税関ホームページ
このように、特恵関税では通常の関税率と比べて適用税率が低く設定されています。
輸入者は商品を安く仕入れることが可能になり、輸出者側である開発途上国では経済発展に繋がると言えるでしょう。
特恵関税のメリット
特恵関税のメリットは立場によりさまざまです。
輸入者、輸出者、先進国、開発途上国それぞれの側面から見てみましょう。
まず、輸入者における特恵関税のメリットですが、輸入品の関税が低くなりコスト削減が可能になります。
それによって、消費者の選択肢を増やすことができるでしょう。
次に、輸出者のメリットとして市場での競争力が向上します。
特恵関税制度を利用することで輸出品にかかる関税が低くなり、輸出品の価格を下げられます。
商品価格競争力が高まり輸出製品が多くの国で受け入れられやすくなり、輸出量の増加が期待できるでしょう。
先進国における特恵関税のメリットですが、開発途上国の経済発展に支援することで国際的な経済協力が進みます。
これにより、開発途上国からの安定した供給網の確立に繋がり、先進国のビジネスにプラスとなるでしょう。
開発途上国のメリットは、輸出が増えることで経済が発展しやすくなります。
輸出産業が発展することで雇用の活発化や、国際市場の競争を通じて技術や品質の向上にも繋がるでしょう。
特恵関税の活用法
特恵関税はどのようなケースで活用されるのでしょうか。
活用ケースと、日本から特恵関税を活用する方法について以下で解説します。
■特恵関税の活用ケース
- 安く商品を購入したいとき
- 新しい市場に進出したいとき
安く商品を購入したいとき
特恵関税の活用法として「安く商品を購入したい」ケースが該当します。
なぜなら、特恵関税を活用することで、輸入者は商品を通常よりも安く仕入れることができるからです。
例えば、特恵関税の適用税率は通常の税率より低く設定されています。
■トマト(生鮮品及び冷蔵したものに限る)の輸入における関税率
・通常の関税率:5.0%
・WTO協定関税率:3.0%
・特別特恵関税率:無税
出典:税関ホームページ
このように、通常トマトの輸入関税率は5.0%ですが、WTO協定関税では3.0%、特別特恵関税率では無税で仕入れることができます。
新しい市場に進出したいとき
開発途上国の企業が新しい市場に進出したいときに特恵関税が活用できます。
なぜなら、特恵関税を活用し関税率を低くすることで他の企業と比べ市場で優位に立てるからです。
例えば、安い価格で商品やサービスの提供が可能になることは価格競争力が上がります。
価格競争力で優位に立つことはビジネスチャンスを広めることが可能になるでしょう。
日本で特恵関税を活用する手順
日本で特恵関税を活用する手順は以下の通りです。
■特恵関税の活用手順
- 対象品目の確認
- 原産地証明書の取得
- 関税率の確認
- 必要書類の準備
- 税関への申告
まず、特恵関税を活用する場合は輸入したい商品が特恵関税の対象品目かどうか確認します。
対象品目であれば輸出国の商工会議所などから原産地証明書を取得します。
次に、通常の関税率と特恵関税率の比較を行い問題なければ、必要書類を準備して税関へ特恵関税の適用申請を行いましょう。
対象品目の確認や関税率の確認は以下のページが参考になります。
出典:税関ホームページ
輸入統計品目表(実行関税率表) : 税関 Japan Customs
まとめ
この記事では、特恵関税の概要やメリット、活用法について解説しました。
特恵関税とは特定の国や地域からの輸入品に対して、通常よりも低い関税を適用する制度のことです。
また、特恵関税には一般特恵関税と特別特恵関税制度があり対象品目や適用税率が異なります。
特恵関税のメリットは輸入者と輸出者がwin-winの関係性を築けることです。
輸入者は安く商品を仕入れることができ、輸出者である開発途上国は輸出量増加によって経済発展が期待できます。