輸出者(売手)と輸入者(買手)それぞれがいて貿易は成り立ちます。
危険負担とは、輸出者(売手)と輸入者(買手)が負担すべき貨物リスク責任の範囲を定めたものです。
危険負担を明確にすることで、万が一トラブルが起きても相手国と円滑な貿易を進めることができます。
この記事では、インコタームズ(国際貿易取引条件)の危険負担の規則についてそれぞれまとめています。
この記事を最後までお読みいただくことで、貿易における危険負担の範囲について詳しく理解することができるでしょう。
目次
危険負担はインコタームズにより定められている
貿易における危険負担はインコタームズ(国際貿易取引条件)により定められています。
■インコタームズとは
International Commercial Termsの略称で1936年に国際商業会議所(ICC:International Chamber of Commerce)によって制定された国際貿易取引条件のことです。インコタームズは約10年に一度改定されており最新版は「インコタームズ2020」で2020年1月1日から適用されています。
ちなみに、インコタームズの内容は貿易条件が主であり、条件違反に対する結果は定められていません。
条件違反に対する結果は売買契約に基づくことが一般的です。
■インコタームズの内容
費用負担:輸出者(売手)と輸入者(買手)が負担すべき費用範囲
危険負担:輸出者(売手)と輸入者(買手)が負担すべき貨物リスク責任範囲
輸出者(売手)と輸入者(買手)が貿易取引ですべきこと、用意すべき書類
上記のように、インコタームズでは貿易に関する条件が定められています。
その中でも危険負担の範囲は、11種類の規則で策定されており、以下の2つに分類されます。
- あらゆる輸送形態に適した規則
- 海上・内陸水路輸送のための規則
それぞれの規則について、以下で詳しく解説します。
あらゆる輸送形態に適した規則
ここでは、あらゆる輸送形態に適した規則の危険負担の範囲について解説します。
■あらゆる輸送形態に適した規則
- EXW
- FCA
- CPT
- CIP
- DPU
- DAP
- DDP
EXW
EXW(エックスワーク)とはEx Worksの略称で工場渡しを意味します。
EXWは、輸出者(売手)が指定した工場や倉庫で輸入者(売手)に貨物を引き渡すと同時に危険負担の範囲が切り替わります。
そのため、輸入者(買手)が貨物の引き渡し後の貨物リスクを全て負担することになります。
EXWは輸出者(売手)の危険負担の範囲が小さく、輸入者(買手)のリスクが大きい条件と言えるでしょう。
FCA
FCA(エフシーエー)とはFree Carrierの略称で運送人渡しを意味します。
危険負担の範囲は、輸出者(売手)が指定した引き渡し場所で、輸入者(買手)が手配する運送人に貨物を引き渡すと同時に切り替わります。
例えば、輸出者(売手)の指定引き渡し場所がCYやCFSの場合、輸入者(買手)が指定したトラック等の運送人に引き渡された時に輸出者(売手)から輸入者(買手)へと危険負担の範囲が切り替わります。
CPT
CPT(シーピーティー)とはCarrier Paid Toの略称で輸送費込みを意味します。
CPTは、輸出者(売手)が指定した引き渡し地で、輸出者(売手)の指定した運送人に貨物を引き渡した時に輸出者(売手)から輸入者(買手)に危険負担が切り替わります。
ただし、費用負担の切り替えは運送人に貨物を引き渡した時ではなく、その先の輸送費(指定仕向け地まで)も輸出者(売手)が負担となるので覚えておくと良いでしょう。
CIP
CIP(シーアイピー)とはCarrier and Insurance Paid Toの略称で輸送費保険料込みを意味します。
CIPの危険負担の範囲は、CPTと同様に輸出者(売手)が指定した引き渡し地で輸出者(売手)の指定した運送人に貨物を引き渡した時
に切り替わります。
CPTとの違いはCIPは輸出者(売手)が輸送費に加えて保険料も負担することです。
DPU
DAT(ディーピーユー)とはDelivered at Place Unloadedの略称で荷卸込み持込渡しを意味します。
危険負担の範囲は、輸入国の指定仕向地で貨物の荷卸しが行われ、輸入者(買手)に貨物が引き渡された時点で輸出者(売手)から輸入者(買手)に切り替わります。
DAP
DAP(ディーエーピー)とはDelivered At Placeの略称で仕向け地持込渡しを意味します。
DAPは、輸入国の指定仕向地に貨物が到着し荷卸しする前までが輸出者(売手)の危険負担範囲です。
その後貨物が引き渡された時点で輸入者(買手)に危険負担の範囲が切り替わります。
DDP
DDP(ディーディーピー)とはDelivered Duty Paidの略称で関税込み持込渡しを意味します。
DDPは、輸入者(買手)が指定する場所(コンテナヤードや倉庫など)への貨物輸送までが輸出者(売手)の危険負担範囲です。
貨物が引き渡された時点で輸入者(買手)に危険負担が切り替わります。
ちなみに、荷卸しは輸入者(買手)によって行うのが一般的です。
海上・内陸水路輸送のための規則
ここでは、海上・内陸水路輸送のための規則について解説します。
■海上・内陸水路輸送のための規則
- FAS
- FOB
- CFR
- CIF
FAS
FAS(エフエーエス)とはFree Alongside Shipの略称で船側渡しを意味します。
FASは、指定積出港で輸入者(買手)が手配した本船の船側に貨物を置くまでが輸出者(売手)の危険負担範囲です。
それ以降を輸入者(買手)が負担します。
ちなみに、本船の船側とは埠頭(港湾内で貨物の積み下ろしをする区域)を指します。
他にも艀(河川や水深の浅い海で貨物を運ぶために作られた船)などが条件とされることがあります。
FOB
FOB(エフオービー)とはFree On Boardの略称で本船渡しを意味します。
FOBは、指定船積港で輸入者(買手)が手配した本船の船上に貨物を置くまでが輸出者(売手)の危険負担範囲です。
貨物が船上に置かれた以降が輸入者(売手)の危険負担範囲となります。
CFR
CFR(シーエフアール)とはCost and Freightの略称で運賃込みを意味します。
CFRは、FOB同様に指定船積港で輸入者(買手)が手配した本船の船上に貨物を置くまでが輸出者(売手)の危険負担範囲となります。
FOBとの違いは、指定仕向地までの輸送費を輸出者(売手)が負担することです。
CIF
CIF(シーアイエフ)とは、Cost Insurance and Freight の略称で運賃保険料込みを意味します。
CIFは、FOB同様に指定船積港で輸入者(買手)が手配した本船の船上に貨物を置くまでが輸出者(売手)の危険負担範囲となります。
FOBとの違いは指定仕向地までの輸送費と保険料を輸出者(売手)が負担することです。
危険負担と費用負担の違い
危険負担と費用負担、それぞれ貿易における負担範囲を定めたものですがその違いは何でしょうか。
ここでは、危険負担と費用負担の違いについて解説します。
■危険負担とは
輸出者(売手)と輸入者(買手)が負担すべき貨物リスク範囲
例:輸送途中における貨物の破損、紛失など
■費用負担とは
輸出者(売手)と輸入者(買手)が負担すべき費用範囲
例:輸送費用、通関費用、関税など
つまり危険負担と費用負担の違いは、「輸送上の貨物リスク範囲を定めたもの」が危険負担、「輸送に関わる費用範囲を定めたもの」が費用負担であると言えるでしょう。
まとめ
今回は、貿易における危険負担について解説しました。
貿易における危険負担とは、輸出者(売手)と輸入者(買手)が負担すべき貨物リスク責任の範囲を指します。
危険負担と費用負担は、インコタームズ(国際貿易取引条件)により定められています。
■あらゆる輸送形態に適した規則
- EXW
- FCA
- CPT
- CIP
- DPU
- DAP
- DDP
■海上・内陸水路輸送のための規則
- FAS
- FOB
- CFR
- CIF
貿易取引を円滑に進めるためにも、あらかじめ危険負担の範囲を相手国と取り決めしておきましょう。