貿易取引を行う中で、当事者が考慮しなければならないリスクの1つが、為替変動リスクです。
このリスクへの対策の1つとして、為替予約があります。
今回は、この為替予約について、貿易リスク管理の視点から解説します。
目次
為替予約とは
為替予約とは、外国通貨の種類、数量、為替レート、受渡時期などの条件を予め取り決める契約のことです。
契約の相手方は、主に銀行となります。
貿易取引における為替リスクの対策の1つとして、為替予約が用いられています。
為替レートとは
為替レートとは、2つの国の通貨の交換比率のことです。
為替レートは平日であれば24時間変動しています。
例えば、1ドル130円と言われたりしますが、現時点で1ドルは130円で交換されていることを意味します。
円高
円高とは、他の通貨に比べて円の価値が高くなることです。
例えば、前日時点で1ドル130円、当日時点で1ドル125円だった場合、前日に比べて5円の円高と言われます。
円安
円安とは、他の通貨に比べて円の価値が安くなることです。
例えば、前日時点で1ドル130円、当日時点で1ドル135円だった場合、前日に比べて5円の円安と言われます。
変動要因
平日であれば24時間、世界中の外国為替市場で取引されています。
為替レートは様々な要因によって変動しており、2国間の金利差、貿易収支、金融政策、地政学的リスクなどが挙げられます。
為替レートの推移(ドル円)
ドル円の為替レートの推移を簡単に確認してみましょう。
ドル円為替レート
- 2020年1月:108円台
- 2021年1月:104円台
- 2022年1月:115円台
- 2023年1月:130円台
ドル円為替レートについては、2022年10月には一時150円台をつけるなど、2021年頃から急速に円安方向へ進んできました。
日米金利差、中央銀行の金融政策の方向性の違い等によるものと言われています。
物価高の要因の1つとなっているため「悪い円安」とも言われ、昨今ではニュースでも頻繁に取り上げられています。
貿易取引における為替変動リスクとは
為替レートの変動は、貿易取引を行う当事者が考慮しなければならないリスクのうちの1つです。
貿易取引内容にもよりますが、契約締結日と決済日は異なることが一般的です。
為替レートは常に変動していますので、契約締結日と決済日が離れれば離れるほど、必要買付資金額の増加または売上金額の減少など、結果として当初の想定よりも不利となる可能性が高くなります。
輸入と輸出を行う場合に、それぞれ為替レートの変動がどのような影響を及ぼし得るのか、確認してみましょう。
一般的な輸入取引の例(ドル建て)
例えば、米国から10,000ドル分の商品を輸入するとします。
まずは、米国の輸出者と売買契約を締結します。
契約締結時点の為替レートは、1ドル120円でした。
輸入者は、将来決済のために必要な買付資金を、円換算で1,200,000円と見込んでいました。
ところが、その後為替レートが円安方向に進み、決済日の時点で1ドル140円になりました。
実際に必要となった買付資金は、円換算で1,400,000円となりました。
結果として、契約締結時点で見込んでいた金額より、200,000円も多く買付資金が必要となってしまいました。
一般的な輸出取引の例(ドル建て)
例えば、米国へ10,000ドル分の商品を輸出するとしましょう。
まずは、米国の輸入者と売買契約を締結します。
契約締結時点の為替レートは、1ドル140円でした。
日本の輸出者は、売上金額を円換算で1,400,000円と見込んでいました。
ところが、その後為替レートが円高方向に進み、決済日の時点で1ドル120円となり、円に換算した実際の売上金額は、1,200,000円となりました。
結果として、契約締結時点で見込んでいた金額より、200,000円も円換算の売上金額が減少してしまいました。
為替変動リスクへの対策
為替レートの変動によって、当初の想定よりも取引採算が悪くなる可能性があります。
このようなリスクへの対策として、いくつかの方法があげられます。
相手と円建てで取引する
契約の際、ドル建てではなく円建てで取り決めをする方法です。
円での取引であれば、日本の取引者は通貨交換を行う必要がないため、為替変動リスクの対策となり得ます。
ただし、取引の相手方は自国通貨から円へ交換する必要があることから、相手方が為替変動リスクを嫌がる等の理由によって、この取引内容を拒否することが考えられます。
取引決済タイミングの調整する
取引決済のタイミングを早めたり遅めたりして調整する方法です。
当初想定していた為替レートや、想定よりも有利な為替レートになった時点で決済します。
ただし、いつまでも決済タイミングを先延ばしすることはできません。
相手方との取り決め期間中に当初想定の為替レートに戻らない可能性もあります。
また、相手方が早急な決済を希望していた場合、この取引内容を拒否することも考えられます。
為替予約をする
本記事冒頭でご紹介した為替予約は、為替変動リスクへの対策となります。
外国通貨の種類、数量、為替レート、受渡時期などの条件を予め銀行と取り決めます。
為替予約の最大のメリットは、将来の為替レート変動の影響を受けず、予約した時点で貿易取引の採算を確定できることです。
為替予約の例
リスク対策としての為替予約の例をご紹介します。
例えば、米国から10,000ドル分の商品を輸入するとします。
まずは、米国の輸出者と売買契約を締結します。
契約締結時点の為替レートは、1ドル120円でした。
将来、輸入者が決済のために必要な買付資金は、円換算で1,200,000円と見込んでいます。
売買契約締結と同時に、銀行と為替予約取引を契約しました。
1ヶ月後の決済日に、現時点での為替レート1ドル120円で、10,000ドルを買うという取引内容です。
1ヶ月後、為替レートが円安方向に進み、決済日の時点で1ドル140円になりました。
しかし、銀行と為替予約取引を契約していたので、当初の見込み通り、1,200,000円で決済することができました。
結果として、為替予約をしていなかった場合と比べて、200,000円分の支出を抑えることができました。
為替予約の注意点
銀行と為替予約契約を締結した場合、そのキャンセルはできません。
輸入であれば円高方向へ、輸出であれば円安方向へ、
決済時点での為替レートが当初想定よりも有利な条件になっていることもあり得ますが、どのような為替レートであったとしても、予約した条件で必ず実行しなければなりません。
また、為替予約は銀行との契約になりますので、銀行に対する手数料等の支払いが必要です。
まとめ
今回は、為替予約について、貿易リスク管理の視点から解説しました。
為替レートは、輸入取引であれば買付金額に、輸出取引であれば売却金額に、良くも悪くも直接影響を及ぼします。
為替予約は、為替変動リスクの対策として有効であり、貿易業を行う上では、是非とも確認しておきたい手段です。
為替予約取引は主に銀行と結ぶ契約になりますので、詳細を確認されたい場合には、取引銀行に問い合わせてみることをおすすめします。