2020年1月、日米貿易協定が発効となりました。
2022年GDPランキングの1位アメリカと3位日本という、2つの大国間で結ばれた貿易に関する協定です。
日本と米国との間で輸出入取引を行っている場合、この協定を上手く活用することで、
有利な関税率を適用できる可能性があります。
ただし、日米貿易協定の特恵税率を適用するには、
原産地規則を満たす、輸入者自らが原産品であることを申告する等、いくつかの条件をクリアする必要があります。
そのために、この協定を正しく理解することが重要となりますが、
他の多くの経済連携協定(EPA)とは異なる部分があり、内容が複雑で難しいと感じる取引担当者様も多くいらっしゃるようです。
この記事では、「日米貿易協定とはどのようなものか」、「どのようなメリット、デメリットがあるのか」、
「輸入で利用を検討する際にはどのようなポイントが重要となるか」、の3点について解説します。
目次
1.日米貿易協定とは
日本国とアメリカ合衆国との貿易協定のことです。
略して日米貿易協定と呼ばれています。
2018年10月にワシントンで署名され、2020年に1月1日に発効となりました。
1.1.意義
日米貿易協定の締結によって、日米間の物品の貿易が促進され経済的な結び付きがより強固されること、
両国関係全般の一層緊密化されることが期待されています。
1.2.内容
日米貿易協定では、一部の農産品と工業品の関税を削減するまたはゼロとすることが定められています。
日本では米国産の一部の農産品の関税が、米国では日本産の一部の工業品の関税が、それぞれその対象となっています。
2.メリット
日本と米国との間で貿易を行っている場合、日米貿易協定を活用することでメリットを享受できる可能性があります。
その最大のメリットは、輸入時、通常よりも有利な税率を適用できることです。
米国から日本へ農産品を輸入する場合と、日本から米国へ工業品を輸出する場合には、協定で定められた特恵税率を適用できる可能性があります。
日米貿易協定税率を適用できれば、納めるべき関税額が減少する又はゼロとなるので、貿易取引における物流コストの削減に繋がります。
2.1.米国から日本への輸入例
例えば、米国産の冷蔵した骨付き牛肉(輸入統計品目番号:0201.20-000)を米国から輸入するとします。
税関のホームページに掲載されている実行関税率表を確認してみますと、2023年2月21日現在、
暫定税率は38.5%(基本税率とWTO協定税率はいずれも50%)で設定されているのに対して、
日米貿易協定税率は24.1%となっています。
暫定税率に比べて14.4ポイントも低く設定されており、通常よりも有利な条件であることがわかります。
2.2.日本から米国への輸出例
例えば、日本産の鉄道部品(HTSコード:8607.99.50-00)を日本から米国へ輸出するとします。
アメリカ国際貿易委員会(United States International Trade Commission)のホームページに掲載されている関税率表を確認してみますと、2023年3月9日現在、
基本税率は3.1%で設定されているのに対して、日米貿易協定税率は無税となっています。
基本税率よりも低く設定されており、通常よりも有利な条件であることがわかります。
3.デメリット
日米貿易協定を利用するならば、この協定について正しく理解することが重要です。
協定を利用できれば取引当事者はメリットを享受できますが、そのためには協定で定められたいくつかの条件をクリアする必要があります。
具体的には、輸入品が原産地規則を満たしていること、輸入者が原産品であることを申告することなどがあります。
これらをクリアできなければ、協定を利用することはできません。
ただ、前述の条件のように、多くの経済連携協定(EPA)とは異なる部分があるため、複雑で難しいと感じられる取引担当者様も少なくないのが実情です。
協定の利用を検討してから実際に輸入申告に至るまで、数ヶ月の時間を要したご担当者様もいらっしゃいます。
誤った理解のままで輸入を行ってしまうと、「いざ輸入の際に日米貿易協定の特恵税率を利用できなかった」、「税関による事後調査によって輸入申告後に不備を指摘された」、といったトラブルが起こりかねません。
これらは、当初の想定より納めるべき関税額が増えるリスク、想定外のコスト(過少申告加算税)が発生するリスクとなります。
つまり、適正な申告のためには協定内容の正しい理解が重要となるが、それは複雑で難しいため正しく内容を理解するまでに時間を要すること、正しく理解していなかったために適正な申告を行えなかった場合には、物流コストが想定よりも増えるまたは想定外に発生するリスクに繋がり得ること、この2つが協定の利用に関するデメリットと言えます。
日米貿易協定の利用を検討されている方は、素早くかつ正確に準備を行うために、事前に税関や起用物流会社などに積極的に相談することをおすすめします。
4.輸入検討のポイント3つ
輸入時の日米貿易協定の利用を検討するにあたり、重要となると思われる3つのポイントをご紹介します。
4.1.協定対象の品目数は限定的
他の経済連携協定と比べて、対象となる品目数は少ないです。
日米貿易協定の対象となる主な品目は、日本から米国への輸出時には工業品、米国から日本への輸入時には農産品です。
そのため、日米間で貿易取引を行っている場合であっても、協定の対象品目となっていなければこの協定を利用することはできません。
輸入品が協定の対象品目であるかどうかは、またその設定税率がいくらであるかは、税関のホームページに掲載されている実行関税率表で確認することができます。
利用検討にあたっては、まずはこの表を確認してみるのが良いでしょう。
ただし、実行関税率表の見方も慣れるまではやや難しいこと、通関士等の物流のプロであっても誤った分類をするのが珍しくないことから、これも決して簡単な作業であるとは言えません。
実行関税率表を確認する際は十分に注意しましょう。
4.2.原産地規則
日米貿易協定を活用するためには、日本または米国の原産品でなければなりません。
単純に、日本または米国が輸出国であることや輸送されてくることだけでは、その国の原産品としては認められません。
原産品として認められるためには、日米貿易協定で定められた原産地規則を満たす必要があります。
原産地規則については、輸入品目毎に細かく定められており、税関や外務省のホームページ等で確認することができます。
4.3.輸入者による自己申告制度
現在日本が締結している経済連携協定において、最も一般的なのは第三者証明制度です。
指定された事業者(第三者)が原産地証明書を発行するというものです。
この書類が、輸入時に税関に対して相手国の原産品であることを証明しています。
例えば、日本においては、日本商工会議所が経済産業省から指定発給機関に指定されています。
輸出品が日本の原産品であるかどうかを同所が審査し、承認した場合にのみ原産地証明書を発行します。
対して、日米貿易協定では輸入者による自己申告制度が採用されています。
これは、輸入者が自らの情報(生産者、生産地、生産方法など)や知識に基づいて、輸入品が原産品であることを自己申告する制度です。
日米貿易協定では輸入者だけが申告することとなっています。
これが他の協定とは異なる点の1つです。
同じく自己申告制度を採用しているTPP11、日豪EPA、日欧EPAでは、輸入者だけではなく、生産者や輸出者もその原産性を申告できることとなっています。
日米貿易協定を利用する予定であるにもかかわらず、原産性の申告を生産者や輸出者に頼ってしまうことの無いよう、注意しましょう。
5.まとめ
この記事では、日米貿易協定の概要、利用するメリットとデメリット、輸入で利用を検討する際に重要となるポイントについて解説しました。
日米貿易協定をうまく活用できれば、物流コストの削減に繋がる可能性があります。
是非利用を検討したい一方で、内容が複雑で難しいと感じられる方も多くいらっしゃるようです。
日米貿易協定の利用には輸送前に事前確認と準備が大切ですので、検討の際は税関や物流会社等に積極的に相談してみることをおすすめします。