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迂回貿易とは 問題点や過去の事例とともに解説

物流業務ご担当の皆様、迂回貿易という言葉をご存知でしょうか?
通常業務の中で聞くことはほぼ無いかもしれませんが、国際取引を行なっていれば、全く無関係ではない言葉でもあります。

今回は、迂回貿易について、その問題点と過去の事例をご紹介します。

迂回貿易とは

迂回貿易とは、国家による輸出入の規制や関税の回避等を目的として、輸出国から輸入国へ直接輸送せず、第三国を経由して行われる貿易のことです。

迂回貿易のうち、第三国を経由して行われる輸出を迂回輸出、第三国を経由して行われる輸入を迂回輸入と言います。

なぜ国家は貿易管理を行うのか

貿易は、輸出国と輸入国どちらにもメリットがあり、その国民に豊かな暮らしをもたらしてくれます。

ただし、輸出入貨物の中には、その国に悪い影響を及ぼすものもあります。

国家は、そのような貨物の輸出入を制限したり、関税を課したりすることで、適切な貿易の管理を行なっています。

国家及び国民によって考え方は異なるため、貿易の管理方法も国によって大きく異なっています。

輸入制限

輸入される貨物の中には、輸入国に悪い影響を及ぼすものがあります。
例えば、日本では、麻薬、大麻、アヘンなどの貨物の輸入が関税法によって禁止されています。
また、その他にも以下のように輸入が規制されている貨物も多々あり、事前に許可、承認等が必要になることもあります。

◆輸入が禁止されているものの例

  • 麻薬、向精神薬、大麻、あへん、けしがら、覚醒剤、あへん吸煙具
  • 指定薬物(医療等の用途に供するために輸入するものを除く。)
  • けん銃、小銃、機関銃、砲、これらの銃砲弾及びけん銃部品
  • 爆発物
  • 火薬類
  • 化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律第2条第3項に規定する特定物質
  • 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第6条第20項に規定する一種病原体等及び同条第21項に規定する二種病原体等
  • 貨幣、紙幣、銀行券、印紙、郵便切手又は有価証券の偽造品、変造品、模造品及び偽造カード(生カードを含む)
  • 公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品
  • 児童ポルノ
  • 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品
  • 不正競争防止法第2条第1項第1号から第3号まで又は第10号から第12号までに掲げる行為を組成する物品

(引用)https://www.customs.go.jp/mizugiwa/kinshi.htm

輸出制限

輸出も輸入と同様に、輸出される貨物の中には、輸出国に悪い影響を及ぼすものがあります。
日本では、特許権、商標権、著作権等を侵害する物品等の輸出が関税法によって禁止されています。
禁止されていなくとも、事前に許可、承認等が必要となる貨物もあります。

◆輸出が禁止されているものの例

  • 麻薬、向精神薬、大麻、あへん、けしがら、覚醒剤
  • 児童ポルノ
  • 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、育成者権を侵害する物品
  • 不正競争防止法第2条第1項第1号から第3号まで又は第10号から第12号までに掲げる行為を組成する物品

(引用)https://www.customs.go.jp/mizugiwa/kinshi.htm

自国産業の保護

多くの国が輸入品に対して関税を課していますが、その主な目的は自国産業の保護です。

国内品が輸入品に競争で負けてしまうと、その国の産業が衰退してしまいます。
輸入品に関税をかけることは、輸入品の販売価格が上昇し、自国産業の競争力の上昇に繋がります。

逆に、自国産業の競争力が強い場合や、自国ではなかなか育たない産業の場合は、その産業の輸入品には関税をかけていなかったり、関税率を低く設定していることがあります。
例えば、日本では電機機械産業が強いので、その輸入品については無課税であることが多いです。

一方、石油は日本ではほぼ採掘されておらず、強い産業とは言えないものの、輸入関税が課せられています。
その理由については、自国産業の保護よりも、国税収入確保という側面の方が大きいようです。

国家安全保障

もし、高性能な電機機器など、軍事転用される可能性のある製品が危険な国家やテロリストに渡ってしまうと、国家安全保障の面で脅威となります。
そのような事態を避けるためにも、国家による貿易管理、特に輸出管理が大切です。

日本では、輸出の際に事前に経済産業大臣の許可が必要となっている品目もあります。

なぜ迂回貿易が行われるのか

国家は、主に自国産業の保護や安全保障のために、貿易管理が必要です。

ただ、その貿易管理によって不利益を受ける輸出者や輸入者の中には、正規のルートを避けて、不正に貿易を行おうとする悪意のある者もでてきます。

輸出入規制の回避

自国産業の保護または安全保障等を理由に、国家は特定の国への輸出又は特定の国からの輸入を制限することがあります。
その制限によって従来のビジネスを進められなくなった輸入者や輸出者の中には、第三国を経由してビジネスを継続する、つまり迂回貿易を検討する者が出てきます。

例えば、A国がB国への輸出を禁止したとします。

A国の輸出者は、B国の輸入者へ直接製品を輸出することができなくなります。

そこで、迂回貿易を考えた輸入者と輸出者は、まずA国B国の両方と貿易を行なっている第三国のC国へ輸出します。

無事にC国に到着した後、今度はC国からB国へ輸出します。

このように、第三国C国を経由することでA国の輸出規制を回避し、輸出者と輸入者は間接的に貿易を行います。これが迂回貿易です。

そのほかの回避手段として、A国であえて製品を完成させず、部品の状態でC国へ輸出し、C国でそれを組み立てた上でB国に輸出するという事例も過去にあったようです。

こちらについても、迂回貿易とみなされることがあります。

関税の回避

多くの国で、多くの輸入品に関税が課せられています。

関税率も、輸入国や輸入品目によって大きく異なります。

日本に輸入する場合でも、実行関税率表を見て頂くとお分かりの通り、輸入品目や適用する関税率によって、関税が大きく変わってきます。

輸入者の心理として、関税をなるべく抑えたいと考えるのは当然のことです。

ただ、不正をしてでも関税額を減らそうという、迂回貿易を検討する悪意のある輸入者も中にはいるようです。

具体的には、第三国へ輸出して原産地(原産国)を偽装した後、本来の目的国に輸送し、EPA税率等、より有利な関税率を適用した上で輸入する、というものです。

迂回貿易の問題点

迂回貿易は、国家による適切な貿易管理を阻害する行為です。
自国産業の保護や国家安全保障という、貿易管理の主な目的の達成が困難になります。

迂回貿易を排除するには、あらゆる国との連携が重要になってきます。
迂回貿易は輸出国、輸入国の当事国だけでなく、第三国も関わってくるためです。

しかし残念ながら、今のところ各国の足並みが揃っているとは言えない状況です。
各国の利害は必ずしも一致しないためです。

迂回貿易への対応も、自国産業の保護と安全保障管理を名目に、各国の判断次第で大きく異なっているのが実情です。

迂回貿易の事例

では、迂回貿易に関して各国がどのような判断をしてきたのか、過去事例を確認してみましょう。

迂回輸入、迂回輸出どちらもニュース等で報道されており、特段珍しいものではありません。
直近で大きく取り上げられた事例をご紹介していきます。

北朝鮮による日本製品の迂回輸入

日本は、法律に基づいて、北朝鮮への輸出禁止措置を講じてきました。
北朝鮮が大量破壊兵器を製造しているとみられることから、国家安全保障の観点からの措置です。

ただ、基本的に日本から北朝鮮へ輸出できない状況であるにもかかわらず、北朝鮮国内には日本製品が出回っているという報道がありました。

残念ながら、中国等の第三国を経由して日本製品が輸出され、北朝鮮によって不正な輸入(迂回輸入)が行われているとみている専門家が多いようです。

なお、2023年1月現在も、北朝鮮への輸出入は全面的に禁止となっています。

ベトナム鉄鋼製品にアメリカ関税400%

2019年、ベトナムから輸出された一部の鉄鋼製品に対して、アメリカが400%を超える関税を課す、という事例がありました。

アメリカは、2015年に台湾と韓国からの一部輸入製品に対して関税をかけましたが、その後ベトナムからの同製品の輸入量が増えたため、ベトナム経由の迂回輸出を疑ったアメリカが、反ダンピング関税を適用したことによるものです。

ベトナムは迂回輸出ではないと反論しましたが、アメリカはこれを認めませんでした。

ロシアによるウクライナ侵攻

2022年、ロシアによるウクライナへの侵攻を受けて、西側諸国はロシアに対して厳しい制裁を課しました。

そのうちの1つが、あらゆる品目の輸出禁止措置です。

ロシアは西側諸国から直接輸入することが難しくなりました。
ところが、禁止措置後、中国や旧ソ連諸国の第三国にロシアの代わりにその製品を買ってもらい、その後ロシアが輸入しているのではないかという、迂回輸入の疑いがあるとの報道がありました。

特に、軍事面でも必要とされる半導体については、中国からロシアへの輸出量が増加しているとみている専門家も多いようです。

まとめ

今回は、迂回貿易について、その問題点や事例をご紹介しました。
今のところ、迂回貿易に対する各国の足並みが揃っているとは言えず、国家次第で判断が大きく異なっています。
これは、国際取引を行なっている方にとっては、大きなリスクになっている可能性があります。

例えば、2019年アメリカによるベトナム鉄鋼製品へ400%の関税を課した事例をご紹介しましたが、もし、ベトナムで製造された鉄鋼製品をアメリカに輸出している日本企業があったなら、当事者で無いにも関わらず、その企業は大きな影響を受けていたかもしれません。

国際取引を行なっていると、常にあらゆるリスクが付きまといます。
常に国際情勢を確認しておき、荷主の責で輸出入を行うことが大切と言えるでしょう。

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